手指の故障、ジストニア、腱鞘炎に対処する (1) – アレクサンダー・テクニーク的視点より

手指の故障、腱鞘炎、ジストニアに悩んでおられる方が、とくに音楽家の方に多くいらっしゃいます。
指が思うように動かなくなったり、思わない方向に動いてしまったり…。

「ジストニア」で検索すると、読んでいて辛くなるような、症状についての話が多く出てきますが、原因や解決法は、医学的にもよくわかっていないと言われているようです。なので、ここでは医学的なことはいったん置いておいて、「手のしびれ」「手の痛み」「指が思うように動かなくなったり、思わない方向に動いてしまったりして、演奏や日常生活に困っている」というようなときの対処についてアレクサンダー・テクニーク的に、考えてみたいと思います。

私が見たところ、ジストニアになる人、手を使いすぎて故障させてしまう人ような人は、非常に真面目で努力家で、目的意識を持って練習を継続することができる人に多いように思われます。そのような努力ができるという能力はもちろんすばらしいことですし、その努力によって今まで成し遂げてきたことも数多くあったことでしょう。それが悪いわけではありません。ただ、手の痛みが治らなくなったり、ジストニアになりかけていることに気づいたときには、今までの努力の仕方とは違う選択をする時期かもしれません。

ジストニアになるような方には練習が好きな方が多いので、ジストニアになったかも?と気づいたときに、ジストニアを直すための努力を同じようにがんばってしまうということがよくあるようです。動かない指を動くようにするために、ひとつひとつ順番に動かす練習をがんばっているうちに、ますます動きが悪くなったり、意図しない方に動くようになってしまったりすることがあります。

そういう方々にこういう提案をすると、抵抗感を感じられるかもしれませんが、あえて提案してみたいと思います。「コントロールしようとするのをやめてみる」ということを。

人間の体は、有機体として、さまざまな非常に複雑な動きができるようにデザインされています。「左右の手で違うことをする」ことも、「指を一本一本違うところに持っていく」ことも、人間の体にとっては可能なことです。また、表現したいこと、伝えたいことに応じて出力を微調整することもできます。熟達した楽器の演奏にはとても細かい複雑な動きが必要ですが、そのような細かい複雑な動きをできるように、人間の体はデザインされているのです。むしろ、それは意志や考えでコントロールするには複雑すぎる動きなのです。人間は、自分にそなわっている動きと同じだけの精密さで考えることはできないのです。

ですから、自分の体を信頼しましょう。
自分の体に対してコントロールしようとしすぎていると気づいたら、それを少し手放してみましょう。

もうひとつ大事なこととして、「体は部分だけでは動かせない」ということがあります。指は、指だけでは動かせません。手のひら、腕、ひじ、肩の関節(上腕関節)、肩甲骨、背中、お腹、肋骨、広背筋、僧帽筋、胸鎖乳突筋、脊椎、胴体全体、骨盤、頭……
言葉にするときりがありませんが、要するに、体全体とのつながりのなかで、指が動いているのです。

神経が体全体を束ねていますが、体全体がなくては神経が働くことはできません。

そしてさらに、自分の意図/考えと、体のつながりがあります。
練習を重ねているうちに、もともとの自分の意図どこかに置いてきてしまって、「指を動かすこと」自体が目的のようになってしまっていないでしょうか?
手を使ってあなたが弾きたい曲はどんな曲でしょうか?
曲の一部分ではなく、曲全体のことをもう一度考えてみてください。
全体としてその曲は、どんなイメージの曲でしょうか?
あなたはどんなイメージを、その曲に対して持っているでしょうか?
曲全体をもう一度、大きくとらえてイメージしてみてください。

「意図と体をつなげる」ということを考えるとき、単に、どこをどう動かしたい、というような物理的なことだけではなく、もう少し本質的なところで、「自分はどのように演奏したいのか?」「どのように音楽とつきあっていきたいのか?」という自分なりの演奏への思いを思い出してみて、そこから練習してみると、不思議と指が動くようになったりすることもあります。

話が少し大きくなってしまいました。
いったん、体に戻ってみましょう。

手を使おうとするとき、胴体を縮めていないだろうか?
ということについて観察してみましょう。

手を使おうとするとき、首を縮めていないだろうか?
というほうがピンとくる人もいるかもしれません。

縮めていることに気づいたら、ゆるんで伸びやかになっていい、
と、許可してあげてください。

自分にそう問いかけることで、体全体が伸びやかになってくると感じられるでしょうか? そのような問いを選んで、自分に問いかけてみてください。

「呼吸していていいんだよ」

という問いかけも、効果的かもしれません。

そうやって、体に伸びやかさがあるところから、手を動かすことはできるでしょうか?

まだ、苦手な動きに入らなくていいです。
楽器に軽く触れる、
楽器でないものーペットボトル、携帯などを持つ、
など、自分にとって、楽に、問題なくできる動きを、
体全体の楽さを感じながら、やってみてください。

練習好きな人としては、早く苦手なところができるように練習したくてうずうずしてしまうかもしれません。
その、「練習したい気持ち」を抑制して、苦手なことを練習しないで、まずは一週間、過ごしてみてください。一週間できたら、もう一週間、練習しない時間を伸ばして様子をみてみましょう。

苦手なところを練習しないと不安が出てくるかもしれません。
「一生、これができなくなったらどうしよう?」
と思われるかもしれません。

でもそんなことはありません。
練習しない時期をちゃんと持つことで、できるようになる時期が近づいてくるのです。

やらないことによって、変化が起こる
そういう変化も、生きものにはあるのです。

必要なのは、自分の「全体性を取り戻す」ことです。

つい練習しすぎて、またぶりかえしてしまう、その繰り返しから抜けられるような、別の選択を試してみませんか?

練習するなら、「苦手な箇所を練習する」のではなく、
「やろうとしたときに体を縮めるのをやめて、ひと呼吸おく練習」
を、してみましょう。


次回は、手と腕の使い方についてもう少し具体的に見ていきたいと思います。


私のアレクサンダー・テクニークのレッスンでは、その人が、やりにくい動きをするときに実際何が起こっているかを見せていただき、改善のための、その人にあった提案をします。また、テーブルワーク(寝た姿勢でのワーク)などを使って、体全体が硬さや収縮から解放されて、のびやかに自由になるお手伝いをします。

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