「アレクサンダー・テクニークの本には、意外に『脱力』ということは書かれていないんですね」と、生徒さんに言われました。「なぜなんでしょう?」と。
たしかにそのとおりで、アレクサンダー・テクニークでは「脱力しましょう」とは言わないんです。
結果として、力がうまく抜けることはよくあります。
でもそれはあくまで結果なのです。
「脱力が大事」と言われると、
「脱力しなくちゃ」と思い、そうすると、ますます力が抜けなくなってしまう。
そういう経験がある方もいらっしゃるのではないでしょうか?
脱力が大事でないと言いたいわけではありません。
たしかに、偉大な音楽家が演奏するとき、よけいな力が全然入っていないように見えて驚くことがあります。
そういうふうになれたらいいのになぁ、と思いますよね。
でも、
脱力を「しよう」とすると、往々にしてうまくいかないのです。
よくあるのが、「脱力しよう」として、ダランとした姿勢になり、体が重くなり、また窮屈になり、手足を動かしにくくなってしまうこと。
望ましいのは、下向きだけでなく、上に向かってもゆるんで広がっていくことです。
あらゆる方向にゆるんで広がっていくこと。
そのためには、本来、努力は必要ないのです。
前に紹介した「セミスパイン」も、あらゆる方向に広がっていくことの助けになるワークのひとつです。
力が入ってしまうとき、ぜひやってみてください。(セミスパインの説明/動画はこちら)
「あ、また力が入っちゃったかも?」などと、ダメだしする必要はありません。
改善点を探すことに一生懸命になりすぎたり、ダメだしをすることで、ますます力が入ってしまいます。
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たとえば、何かをするときに、手や腕のことばかり考えていて、体全体のことを忘れていると、よけいな力が入りやすくなります。
首の緊張が気になって、首のことばかり考えているときも、力が抜けなくなりがちです。
頭と胴体、首、背骨、骨盤、脚、足先、腕…
いま、体のなかで、存在を忘れているところはどこかありませんか?
自分の体の全体像を、ざっくりと、思い出してみましょう。
それが、脱力に至る大事な一歩。
何かをするときでも、体全体のバランスがよくなれば、どこか一部に力を入れている必要がなくなるからです。
そう、力が入ってしまっているときは、そのときのあなたにとって、力が入る必要性があるのです。
それを無視して力を抜こうとしても無理があります。
くずれおちてしまいます。
または、くずれおちないようにすることと、力を抜くことを同時にやろうとすると、そこに葛藤が起こってなおさら固くなってしまいます。
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体のことばかり考えすぎて、力が抜けなくなってしまう、ということもあります。
そんなときには、
大地に支えられていることを思い出しましょう
まわりの空間があることを思い出しましょう
どんな世界を表現したいかを、思い出しましょう。
体と、環境、思い、それらが統合すると、適度に力が抜ける、
そんなことが起こることがよくあります。
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アレクサンダー・テクニークは、体のワークでもありますが、体だけのワークではありません。体と、環境、思い、それらを統合するためのワークです。
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文章にするとどうしても抽象的になってしまいますが、実際のレッスンでは、上記のような考え方をベースに、その人の姿勢や、その人がやっていることを見て、具体的に一緒に見ていきます。
(2021.9.1)
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