みなさんこんにちは
ずっと書こうと思っていた、レッスンでもよく出てくる呼吸と発声のことを、書いてみました。
歌う人にとっての声と、管楽器奏者にとっての呼吸は、どちらも、音楽をつくる媒体としてとても大事なものですね。また直接的に声や呼吸のことを、ふだん意識しない人も、もちろん、常に呼吸はしています。
呼吸は、動きです。呼吸の動きをおおまかに理解しておくことは、体を固めることを抑制したり、手足の動きをより自由にするために、また、精神的な緊張をほどくために、そして、音楽のリズムを体現するために役に立つでしょう。
空気を声にしたり、楽器へと送りこむとき、その空気はあなたの体のなかからどういうふうに外に出ていくか、まずはそこから見ていきたいと思います。
まず、肺の中にある空気を声にしたり、楽器に吹き込みたいとき、そのときの空気が通っていく道筋と、体の動きを見ていきましょう。歌う人の例でみていきますが、管楽器を吹くときも、話すときも同じ流れです。
声を出すとき、息を吐くときの、体の動きと呼吸の動き
まず、今、肺に空気があるとして、吐くほうから見ていきましょう。
肺は、とても大きなものです。フレキシブルな鳥かごのような肋骨に守られて、胸骨のすぐ裏から背中の後ろまでの奥行があり、高さも、上は鎖骨のあたりから、肋骨の一番下あたりまであります。肺は袋のようなもので、それ自体には動ける筋肉はありません。
声を出そうとすると、肺の下全体にある横隔膜やそのほかの筋肉(腹筋や背筋や、さらに下の、骨盤底の筋肉まで)が動いて、肺の空気が上に向かって送り出されます。送りだされた空気が気道を通って、声帯を振動させながら、首の内側にある気道を抜けて、口腔に届き、そこから前方に、外の世界に出ていきます。
息を吐こうとする動きは、体の中では、まずは上向きの流れです。
上向きにどこまで行くのでしょうか?唇まででしょうか? 実は、空気は唇よりさらに上まで届きます。声を出すために開いた口よりさらに上まで、鼻の奥あたりまで空気が届いてから、外に出ていきます。口の中、口腔は、鼻の奥ぐらいの高さ、奥行きは耳のすぐ前あたりまであります。口腔の大きさを思ってみましょう。
002ささやくアーのときの胴体の絵の唇半開き
体の外に出た声は、あなたが意図すれば、部屋の一番後ろまで届けることもできるし、屋外なら、さらに遠くまで届けることもできます。
まずは、肺~気道~口腔~体の外 という空気の流れ全体として、声を出すことをとらえ、出ていく空気の通り道を邪魔しないことを思うと、それだけで声が自然に出しやすくなります。
息は自然に入ってくる
今、吐くほうから見ていきました。しかし、吸うことのほうが気になっている人も多いかもしれません。実は、息が続かないと悩んでいる人には、吸えていないというより、吐けていないというケースが多いのです。吐く息の流れをどこかで抑えてしまって、吐ききれていないので、吸うほうもうまく吸えなくなっているということが多いのです。まずは、スムーズに吐くことを意識してみましょう。
息を吐いて、それをやめると、肺を収縮させていた筋肉群が、瞬時にふっとゆるんで収縮から戻ります。すると、胸郭の中が広くなり、肺に空気が自然に入ってきます。息を吸う動きは、筋肉がゆるむ動きなので、がんばって吸おうとしすぎないほうが、スムーズに入ってくるのです。
歌う人、声を出すことと、発声トレーニング
歌を歌っている人のなかで、発声、ボイストレーニングを受けてきた人と、トレーニングを受けずに歌っている人がいるでしょう。
トレーニングを受けない人は、受けない理由として、声の個性を失いたくないということを挙げる人がいます。自分が出したい声を楽に出せているなら問題ありません。そうでなくて、今ひとつ思うような声が出ないという人や、喉を痛めがちな人は、上にあげたような発声のしくみと流れを認識して、その自然の動きを邪魔せず声を出すことを意識すると、助けになると思います。大きい声や高い声を、喉だけで出そうとしていると、喉を酷使して痛める原因になることがあるからです。また、声がすぐに枯れたり、声が伸びない、声のボリュームが出ない、というような悩みがある場合も、体全体の自然の動きを邪魔せず声を出すことで、解決することが多いと思います。
発声トレーニングを受けてきた人で、それでも発声がうまくいかないという人は、その体の意識が部分的になってしまっているケースが多いです。
また、コントロールしようとしすぎると、自然に動く動きをかえって止めてしまうことがあるので気をつけましょう。それでかえって体を固めながら声を出す癖がついてしまう人がいます。そうすると出る声が苦しそうな声になってしまい、実際、本人も苦しくなってしまいます。そして、声の質や音程をふくめ、かえってコントロールできなくなってしまうのです。
空気が声になって共鳴して響くまでを、体の中を上向きに行く流れとしてとらえてみましょう。そうすると、体のそれぞれのつながりが取り戻ります。
「腹式呼吸」の落とし穴
「腹式呼吸」をしようとして、腹筋の一部だけを動かそうとして、かえって腹筋を固めて使ってしまい、自由な動きが起こりにくくなってしまっていることがあります。
腹筋を使っていることと、腹筋を固めていることは、違います。腹筋は、固めないほうが、使うことができます。お腹の動きは、直接動かそうとして動くのではなく、体全体の動きの結果として動きます。
息を吐こうと思うと(声を出そうと思うと)、体のシステムがそれに反応して、腹筋を含めそのまわりのたくさんの筋肉が総動員されて、肺の空気を上に向かって送り出してくれます。
出したい声、出したい音を出すために(音程、音量、音の長さ、音の質)
まず、どういう音程で、どういうリズムで、どれくらいのボリュームで、どこに届く、どういう声を出したいかの意図が明確であれば、それに体のシステムが反応してくれます。
ですから、
1.出したい音のイメージ/意図を明確にすること
2.体のシステムのはたらきを邪魔しないこと
が、まず大切です。直接あなたが体をコントロールして声を音を出すというより、あなたがするべきことは、明確な意図をもつことで、あとは体にまかせることが大切です。
その点を意識するだけで、出したい声、出したい音が出せるようになったという人は、とても多いです。息がもっと続くようになったり、声がもっと大きく出るようになったり、声の質がよくなった、という人がたくさんいます。
今までに見てきたことが、そのためのヒントになればうれしいです。
もうひとつ必要なのは、体全体の自由さです。
歌うとき、楽器を吹くときに、お腹のことは意識していても、背中や骨盤、お尻、胴体の側面などは意識に含めていない人が多いです。胴体全体を、背面も下も含めて立体的なものとして認識して、胴体は、下は骨盤の底まであると考えましょう。骨盤の底の筋肉も、息を吐く動きに参加して一緒に動きます。ふだんから、骨盤の底までを一つの胴体として使う習慣をつけると、声のボリューム、音の大きさが出しやすくなり、コントロールしやすくなります。
・背中や、骨盤の底までを含めた胴体全体を縮めないで使っていること
・股関節が自由なこと(股関節の自由さと、胴体の自由さは関連しあっています)。
・腕が自由で肋骨の動きを邪魔していないこと
を、歌うときや、楽器を演奏するとき、そして、ふだんの生活のなかでも意識してみるとよいです。
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はじめまして。
なるほど~!!!
私もだいぶ前に、腹式呼吸を意識し過ぎて、お腹ばかりに力を入れた結果、なんだか逆に調子が悪くなったことがあります。
呼吸と発声が、いかに大切かは分かっているつもりでも、やっぱりこのように細かく書いて下さると、しっかりと理解できるものですね。
参考になります!!