あがり症(3)~緊張を味方につけて、自分が表現したい世界を描く

本番で緊張しやすい、あがりやすい、ということに悩んでおられる方が多くいらっしゃいます。

緊張したり、あがったりするのは、その場が、その人にとって大事な場だからこそですよね。
お客さんがたくさん来る本番、大事な人、尊敬する人が見に来る舞台…。
あるいは就職活動での面接や、教育実習等の場面も、緊張すると思います。

「ふだんから緊張する」という方も多くいらっしゃるかもしれません。「体の動きの気づきのワーク」(セミスパインなど)をぜひ続けてみてください。体への気づきが増し、体がだんだん自由になってくるのにともなって、緊張しやすい体質が少しづつ変わってくるでしょう。

「ふだんは本番と違って緊張しない」と自分では思っている場合でも、気づかないまま、体を固めながら演奏その他のことをやっているかもしれません。そのような体を固めながら物事を行う習慣がほぐれてくると、本番で精神的に緊張したときでも体が自由に動くようになってきます。

緊張したり、あがったりするのは、その機会をあなたがそれだけ大事だと考えているからこそです。
ですから、そのテンションをアドレナリンに変えて、よいパフォーマンスの助けに変えるということが可能です。
緊張すること自体は、かならずしも悪いことではないのです。
ただ、緊張することによって手や足がふるえて思うように動かせなくなったり、頭が真っ白になってしまったりして、やりたいことが思うようにできなくなってしまうのがつらいのですよね。また、終わった後にその緊張がなかなかゆるまないのも、また、つらいですよね。

でも、まずは、
「緊張を、追いやってしまおうとしまわない」
というところからはじめてみましょう。

というのは、「緊張しないようにしなくっちゃ」と思うことで、なおさら緊張が高まってしまう、ということが起こり得るからです。そうすると悪循環が起こってしまいます。
私自身にもかつて、そういう経験をたくさんしました。

「自分が緊張している」ということに対して、あまり反応しないでみましょう。

そのかわりに、「あー、緊張しているな」と、もう一人の自分が自分を眺めているようなつもりになってみましょう。
緊張している自分を変えようとしないでいると、いつのまにか少しずつ、自分の状態が変わっていきます。
「自分は緊張しつつも、このパフォーマンスを、今やろうとしているんだな」と、その自分を眺めていましょう。
すると、「パフォーマンスをするための自分」へと、自然に変化していきます。
ある時点で、ものすごく緊張していたとしても、ずっとその状態が続くわけではありません。変化していきます。その、自然に起こっている変化を邪魔しないようにしましょう。

参考:『演奏者のためのはじめてのアレクサンダー・テクニーク』 p124~p135「あがってしまうとき①②③」


以下にやっていただきたいワークがあります。

【ワーク:緊張を味方につけて、自分が表現したい世界を描く】

ノートにメモを取りながらやってみてください。
言葉より図や絵のほうが描きやすい方は、図や絵で描くのもよいでしょう。

1.自分にとって緊張しやすい状況をひとつ、具体的に思い浮かべてください。
近い未来に予定されている演奏の本番や、最近終わった演奏の本番があれば、それを選ぶとわかりやすいと思います。
また、プレゼンや面接や、苦手な人と話すことを選んでもよいでしょう。

(1)何人ぐらいの、どんな人たちが観客にいますか?

(2)その場所はどんな場所でしょうか? 広さ、明るさ、暗さ、床や壁の材質、雰囲気、暖かさ冷たさなどを思い浮かべてください。

2.その状況を思い浮かべたとき、自分の体はどうなっているでしょうか?
緊張が、体のどこかに表れているでしょうか?
何に気づきますか?

3.その状況を思い浮かべたとき、逆に、体のなかで意識が薄くなっている部分はありますか?
足の裏はどうでしょう? 足の裏が床に着いていることを思い出してみてください。

4.緊張しているときは、体のどこか一部分に意識やエネルギーが集まりすぎていることがよくあります。
集中しすぎたエネルギーを体全体にまんべんなく行き渡らせるようなつもりで、忘れていたところ、たとえば足先、背中、頭のうしろ、などの存在を思い出してみてください。
歩いてみたり、ゆれてみたり、体を動かしながら思い出すのもよいでしょう。

5.呼吸の動きを思い出してみてください。人間は、静止しているときでも呼吸しているし、血流の流れや内臓のはたらきなども、意識していないところで動き続けています。緊張して体を固めているときでも、見えない動きがつねに、体の中に起こり続けているということを思い出しましょう。

6.もう一度、最初の状況を思い浮かべてみてください。
頭の後頭部に視覚野がありますが、視覚野で状況を映像化するようなつもりで、想像上のステージやレッスン室などの景色を見てみてください。

7.自分がその空間の中心に居ると思ってみましょう。
自分の後ろにも空間があります。
足元には床があって、床の下には地面があります。

8.自分が演奏する曲全体を思い浮かべてみましょう。またはプレゼンや面接で話したり聞いたりする内容を思い浮かべてみましょう。
出だしの音だけでなく、難しい部分だけでもなく、全体としてどういう雰囲気の曲でしょう? 全体としてどんな話の内容でしょうか?

9. その曲について、自分なりに思い浮かぶ景色はありますか?
どんな雰囲気の話し合いになったらいいなと思いますか?

10.そのように全体の雰囲気を頭の中で映像化してみてから、曲を演奏してみましょう。
または自分が曲を演奏していることを想像してみましょう。
または話をしてみましょう。

―――

「緊張を、追いやってしまおうとしまわない」
そのうえで、体全体に意識を向けてみることと、状況を具体的にイメージして、表現したい意図/雰囲気を自覚することを、やってみてください。
からだと心と考えが一致すること、緊張を味方につけて自分の世界を表現すること、コミュニケートすることの助けになると思います。

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