手を使うことや、楽器演奏と姿勢との関係
楽器を奏する方にレッスンをしていて、「手や、指については常に意識をしているけれど、頭や胴体を意識することは今までありませんでした。でも胴体を意識すると、手が動かしやすくなるのが不思議です!」と、よく言われます。
実は、手を使って演奏する人にとって、手だけに意識を向けるのではなく、頭や胴体を意識に含めると、その結果、指や、手が、格段に動きやすくなるのです。手は、頭で思い描いたイメージが、胴体を通って手に届いてこそ、動かすことができます。手だけがあっても、手を動かすことはできません。それなのに頭や胴体などの、体の中心全体について意識をしていないのは、もったいないことですし、指や、腕を上手く使うために、効率が悪くなってしまいます。
また「足も、意識から抜け落ちていました」とよく言われますが、足も大事です。足を通して、重力とコンタクトをとっています。それは手を使うときの支えになるものなのです。
声を出すことと、胴体と、頭の奥行き
また、歌う人からは「喉、口、胸、お腹は意識しているけれど、背中や骨盤や、足のことは考えたことがありませんでした」という声を聞いたりします。しかし実は、呼吸を支えるためには、骨盤、そして足を通して地面からのサポートを受け取ることが大事です。また歌う人から「顔のことは考えていたけれど、首や、後頭部のことは考えていませんでした」とも言われます。しかし空気の通り道を邪魔しないためには、首や、後頭部を窮屈にしないことも、とても大事です。
よい姿勢とは、自分を型にはめることではない
そんなわけで、頭や胴体という、体の中心についての意識を持ち、そこと手足とのつながりについて意識を持つことは、演奏するときにとても大事です。ただ、アレクサンダー・テクニークで言う、頭や脊椎についての話は、一般的にイメージされる「よい姿勢」とは少し違うところもあります。
「よい姿勢」というと、「まっすぐにしなければならない」「がんばって体をひきあげていなければならない」「体の特定の部分を正しい位置にもっていかないといけない」というようなイメージが持たれがちのように思います。それで、がんばって自分を持ち上げるのだけれど、時間が経つうちに疲れてしまって、そのうち気を抜いてしまい、かえってダランとなってしまう…というように訴える方がよくいらっしゃいます。また、それでも我慢してそれを続けているうちに、かえって体を傷めてしまう場合も少なくありません。
アレクサンダー・テクニークで言う、よい姿勢は、無理をして作りあげる姿勢でもなければ、自分を固めたり、型にはめたりすることでもありません。形としての姿勢は、結果として後から現れるものなのです。はじめから一足飛びにそこを目指すと、かえって固くなってしまいます。
体の中心に、しなやかな背骨と、頭があり、骨盤があり、そこから自由に手足を動かせる姿勢です。また手足を動かすだけでなく、体全体で揺れたり、リズムを取ったりもできる姿勢、ときには大きく動いても、またすぐに戻って来れる姿勢です。体の中心が定まっていると、動いても、らくに戻ってくることができます。それは体を固めることによって作りあげている姿勢とは違うからです。バランスのとれた姿勢でいるとき、実は、体は静止しているように見えても、自分でも気づかないくらいに微細に動き続けています。
このように、動けるような姿勢、姿勢のなかの動きを意識することと、体の表面の部分を固めないこと、それによって、体の芯の部分がしなやかに、かつ、しっかりしてきます。すると、いつのまにか、見た目にもよい姿勢に、無理をしなくても、なってくるのです。
重力を味方につけましょう
姿勢に関してよく言われるフレーズに「上から吊り下げられているようにするとよい」というのがあります。しかしそのイメージだと、地面にサポートされているということを忘れてしまっているようにも思います。重力を味方につけましょう。重力があるから、上に向かって伸びていけるのです。
重力を味方につけるために、まず紹介したいワークのひとつが、セミスパインです。床に仰向けになり、ひざを立てて休むという、とてもシンプルな方法です。セミスパインで休んだ後、立つと、「背が伸びたように感じる」という人が多いのです。
ほかにも、いろいろな方法があります。よかったらレッスンでやってみましょう。