F.M.アレクサンダー(アレクサンダー・テクニークの創始者)が開発したプロシージャーに、ウィスパード・アー(whispered ahh / ささやく”アー”)というのがあって、私のレッスンでもよくやります。
ごく簡単に紹介すると、
・目でほほえんで、
・上あごから下あごをぶら下げるように、口をひらく
・息を吐きながら、”アー”の音を、音を立てずに、ささやく
というようなことです。
このときに、息を吐く前にわざわざ吸い込まなくてよいです。今ある息を吐くだけでよいです。
また、息をすべてしぼりだそうとしなくていいです。
よく、息をたくさん吐こうとして、吸い込みすぎたり、吐こうとしすぎたりしている人がいますが、
それは逆効果になっていることが多いです。
そんなことをしなくても、長く息を吐くことも、大きく吐くこともできます。
これはだんだん、やるうちに、わかってくると思います。
息を吐いたり吸ったりすることがこんなにラクだったかと、驚く人も多いです。
でも、はじめからたくさん吐こうとしなくてよいです。
そうやって吐けると、吸う息も自然に入ってきます。
吐き終わったら、いったん唇を閉じておいたほうがいいかもしれません。
ささやく”アー”でも大事なポイントは、脊椎に沿って、上向き方向を思うということです。
(アレクサンダー・テクニークのレッスンではこのことは繰り返し出てきます)。
意外と、息を吐こうとするときに、ぐいっと体を押し下げながら、一生懸命吐こうとしている人が多いです。
でも、実は呼吸の動きは、上向き方向の動きなのです。
まず、肺に空気が入っていますね。肺はすごく広く、奥行きも奥まであり、大きなものです。
肋骨に守られて、前から後ろまであります。
しかし肺の筋肉は不随意筋しかなく、自分で空気を押し出したり、動かすことはできません。
肺の下に横隔膜があり、さらにその下に、いろいろな筋膜や筋肉があり (骨盤底の筋肉なども呼吸のために大事な働きをしています)、それらすべてによって、肺の空気は下から支えられながら、ポンプのように、上へと押し上げられていきます。
空気は肺から上に出て行き、首の前面の管の通り道をとおって口腔にむかってあがっていきます。
口腔は意外と広くて、頬の奥、鼻の奥まで、奥行きも、高さもあって立体的です。
(広げようとしなくても、そもそも広いです。ただそれを認識するだけでよいです)。
その広い口腔の部屋全体に届いた空気が、今度は口から出て前に出て行きます。
つまり、空気は上向きに動いて行って、鼻の奥ぐらいまで上に行ってから、前に出て行きます。
それを支えて動かす筋肉の動きも、上向きの動きです。
上向き方向を思うことにはもうひとつ利点があります。
息を吐くことを気負いすぎたり、または別の理由で緊張していて、首を縮めて、息の通り道をふさいでしまっている場合も多いですが、上向き方向を思うことで、そういう癖や状態も、抑制しやすくなります。息の通り道をひらく助けになります。
私のレッスンでは、ささやく”アー”をやりながら座ったり立ったりしてもらうこともあります。
これをやると、
「動きやすいです」
という人と、
「呼吸がしやすいです」
という人がいます。
ささやく”アー”をやることによって、上向き方向の意識ができるので、それが動きのサポートになって、動きやすくなるし、下半身も全部含めて動くことで、体全体の動きの意識ができて、呼吸がしやすくなります。そういう相互作用があります。
呼吸は、体全体の、ダイナミックな動きなのです。
でも、そのダイナミックな動きは、体のシステムがいつもやってくれていることです。
私たちにできることは、それを邪魔しないことです。
ささやく”アー”のプロシージャーも、そのような体のシステムのはたらきを邪魔しないことを学ぶ方法の一つだとも言えると思います。
ささやく”アー”は、ほかにもいろいろなことに役に立つし、いろいろなことに応用できます。
緊張をほぐすためにも役に立つし、声を出すことにも役に立ちます。
私のアレクサンダー・テクニーク・レッスンでは、ささやく”アー”に、声をつけてみる、ということも、ときどきやります。そのようなことについても、いずれまた書けたらと思います。
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