アレクサンダー・テクニークのレッスンに来られた後、なるべく早くマスターしたいと、”やろう”としすぎてしまう人がいます。
でも、身につけるためには、急がないのが近道です。
アレクサンダー・テクニークは、「やり方」を学ぶのではなく、「やりすぎをやめること」を学ぶことなのです。自分が何をやりすぎているかに気づき、それをやめていくことを学習するのがアレクサンダー・テクニークです。
アレクサンダー・テクニークのレッスンのなかで方向性について学んだり、あるいはボディ・マッピング的な知識を得ることがありますが、それは自分の動きや自分の癖や、自分自身について認識するための手助けになってくれると思います。
でもそれは、絶対の「正解」ではないし、「正しくできるように見につけるべきこと」ではないのです。あくまで「地図」であって、現実の体はひとりひとり違うし、現実は一刻一刻、常に変わりつづけています。
自分が古すぎる地図を持っていて、それに頼っていたことに気づいたら、新しい地図を手に入れると、旅をするのに役に立つでしょう。だからといって、「地図」を無理に現実にあてはめようとする必要はありません。地図を参考にして、地図にも載っていない自分自身に驚きながら、旅を続ければいいのです。
レッスンでの体験がここちよい体験だったとしても、それを「再現しよう」としないでください。「再現しよう」とするとかえって固くなってしまうことがあります。
また、「正しく」やろうとしないでください。「正しく」やろうとすることによっても、固くなってしまうことがあります。レッスンでの体験が唯一の「正解」ではなく、そのときの正解は、そのときによって違うし、それは、やってみないとわかりません。
レッスンで「方向性」について学びますが、「方向性」は、「形」や「位置」とは違って、限定がないものです。「方向性」を思うことで、自分が自分を縮めていたり、制限していたことに気づくかもしれません。気づいたら、やめることができます。そして「方向性」は一方向ではなく、実はあらゆる方向性が働いています。
「やめる」ことができるのは、ほんの少しづつです。
一度に全部のことを手放せたらいいと思うかもしれませんが、それができたとしても、多くの人はパニックになってしまうかもしれません。そして、揺り戻しが起こりやすいかもしれません。
アレクサンダー・テクニークでも時には大きな変化が起こることもありますが、基本的には、少しづつ、自分が対処できるだけづつ、変化していく方法だと思います。
とはいえ、少しの変化がとても大きく感じられることもあります。
長年積み重ねてきた自分のやり方と違うことをやるということは、小さなことでも大きなことです。
でも、自分と自分の体を信頼してあげてください。そして、「やろう」としすぎて固めているのに気づいたら、それは手放す。
自分が無理していなければ、通常は、無理なことは起こらないと思います。