littlesoundsでのアレクサンダー・テクニークのレッスンのなかでは、楽器演奏や日常動作、家事、趣味や仕事の動きや姿勢など、その人が普段やっていることをアクティビティとして行うことがよくあります。
まず基本的なワークをやった後、レッスンの後半にやることが多いです。
やはり自分がいつも関心をもってやっていることに応用できることが実際的にわかると、嬉しいし、モチベーションがあがりますよね。
アクティビティのやり方は、それぞれのケースによってさまざまですが、最初のうちによく観ることのひとつは、構えるまでの動きについてです。
たとえばヴァイオリニストの方だと、
「じゃあ、ヴァイオリンを弾いてみますか?」と言うと、素早くてきぱきと、傍らに置いたケースからヴァイオリンを取り出し、構えます。
楽器を構え終わったところがスタート地点、というように、そこで初めて一回止まる方が多いです。
それで、「この構える姿勢は、どうなんでしょう?」と、そこで初めて自分の使い方を見ようとします。
でも、そこに至るまでの構えるところまでの一連の動き・・・
~楽器ケースを見て、1、2歩進み、かがんで、楽器ケースをあけて、楽器を取り出し、弓を取り出し、楽器ケースの蓋をしめ、体を起こして立って、楽器の向きを変えながら首の前まで持ってきて、あごを少し上げ、あごを下ろす~
構えるまでにたくさんのことが起こっていますね
それらの準備の動きは、しかし、ふだん、あまり自覚されることが多くないのではないかと思います。初心者のころは、構えるまでの動きを注意深く行っていたかもしれませんが、長年やっている方にとっては、それらの動きは、なるべく早く済ませたい動きかもしれません。
たしかに、そんな動きにあまり時間がかかりすぎると困りますが、もし自分の構える姿勢を観たいのであれば、その姿勢になるまでの動きに注意を払ってみるとよいのではないでしょうか。
「姿勢」を気にする人は、多いです。
ただ、その「姿勢」といったときに、固定した「位置」をイメージしている方が多いように思います。
、「肩をもう少しひいたほうがよいのかどうか?肩を下げたほうがよいのか?」「前にかがみすぎていないか?」などというふうに・・・。
でもそのような、前か、後ろか、上か、下か、というような「位置」は、それまでの動きの結果のあらわれにすぎないのです。
その、結果としての位置だけを変えて、それを覚えようとしても、固くなってしまうし、楽器を演奏するということは一連の動きなのだから、固めながら、動く、ということになると、話を難しくしてしまいます。
今、あなたがその「姿勢」になっているのには理由があるし、一連の動きの結果として今の「姿勢」があるのです。
だから、まずは「位置」は置いておいて、動きから観ていくとよいです。
(その動きには、大きな動きもあるし、バランスを取るなどの微細な動きの場合もあります)。動きのなかに、何かやりすぎているところがないか、不必要に力をいれすぎているところがないか、というようなことを見てみます。
動きが変わったら、その結果としての姿勢も、おのずと変わります。そのときの姿勢は、無理やり矯正したものではなく、自然に美しい姿勢になっていることでしょう。
「姿勢」という漢字は「姿」の「勢い」ですよね。
まさにその漢字のとおりだと思います。
「勢い」が生かされていれば、「姿」も美しく、有機的で、動きやすくなっていると思います。
(「姿勢」を英語で言った場合の”posture”には、もう少し固定的な意味合いがあるみたいです。日本語~漢語ってすごいですね。)
楽器を構えるときの動きを見てみるためのヒントとして、たとえば・・・
・かがむときに首を楽に、背骨を長く使うことを思う。
(そのためには股関節で曲がることを意識することが役に立ちます。ウェストで曲がるのではなく。ウェストの関節は、大きく曲がる動きにはあまり適していません。)
・体を起こすときにも、背骨全体で起きてくることを思う。頭がその動きをリードする。
・楽器の向きを変え、楽器を体に近づけるとき、腕を長く使うと考える。
・楽器を胸の上に置くとき、胸を縮めない。
(直接的には胸の上に楽器があるが、その下には体全体があって、さらにその下には地面のサポートがある。なので、触れてる部分だけで支えようとしなくてよいです)。
・あごを下ろすとき、首を固めなくてよい。
(頭の立体全体の向きが変わると、あごが楽器の上に軽く乗る。
あごで楽器を押し付ける必要はありません)。
これらを全部、注意する必要はありません。このなかのどれか一つでいいと思います。
(あるいは、このリストのなかにはないことかもしれないし、別の言い方のほうがしっくりするかもしれませんが)。
どれか一つが変われば、ほかのことも変わってきます。
どれか一つを注意することによって、無理な動き方や、やりすぎを抑制することができて、一連の準備の動きがなめらかになってくると思います。そうやって構 えると、構えた姿勢が有機的なものに変わってきて、それまでに、おさまりの悪さや、違和感や、痛みなどを感じていた人も、そういうものがなくなっている場合が多いです。
もうひとつ、「注意する」と言っても、注意深くなりすぎる必要はないし、すべてを正しくしようとしなくてよいです。そんなことは無理だし、無理なことをしようとすると、かえってギクシャクしてしまいます。
ただ、注意力(attention)を向けることによって、少しづつ変化が起こってきます。
そうやって、楽器を弾くと、より響く音に変わったり、体も楽になり、気持ちよく演奏できたりします。
まず自分という楽器がよく響くようにチューニングできていると、
自分と楽器が出会って、響きあうようになります。
響きも、動きなんですよね。
同じことは、楽器演奏に限らず、デスクワークで座る姿勢を観たい、というような場合も、まず座る姿勢になるまでの動きをどうしているかを見てみるとよいと思います。
シンプルな動きにでも、精密で複雑な動きにでも、応用してみるといいと思います。
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楽器演奏のアクティビティについては、上記のようなことのほかに、曲や、難しいフレーズを弾いてもらうこともありますし、舞台を想定してやるなど、その人の状態や、問題意識によっていろいろできることがあります。興味のある方はご相談ください。