震災のときの子どものケアについて

みなさん、いかがお過ごしですか?

国際モンテッソーリ協会理事の深津高子さんから、
「幼い子どもたちが避難する際のケアについて」
というレポートが、私が購読しているメーリングリストあてに届きました。

子どもの目線に立った、すばらしいレポートだと思います。

後日註 )震災の直後に届いたレポートでしたが、震災以外のトラウマに遭われた子どもや大人のケアのためにも役立つと思います。
また、避難に限らず、引っ越しなど、環境が変わるときの子どものケアにも役立つと思います。

避難している子どもたちはもちろん、首都圏でいまのところ被害が少なくて、地域にとどまっている子どもたちをケアするときにも、役に立つと思います。深津さんの許可を得て掲載します。

地域にとどまっている子どもたちと、保護者の方がたには、後半の
【地震のときの対応】【被災地での本や話の内容】が、とくに役に立つと思います。
また、【避難先に着いたら】のなかの、「手や体を動かしましょう」「お手伝いもしてもらいましょう」というのも、家でもできることですね。

そしてもちろん、平常に戻ったときの子どもとの接し方にも、普遍的に役に立つと思います。

また、深津さんも最後に書いているように、大人が安心することにも役に立つと思います。

 

もくじ
【新しい避難場所が決まり、移動する時】
「0歳から3歳 穏かに安心感を伝えましょう」
「3歳から6歳 具体的に伝えましょう」
「6歳から12歳 大切な価値を伝えましょう」

【避難先へ向かう準備】
「自分のことは自分で」

【避難先に着いたら】
「0歳から3歳 場所や順序を保ちましょう」
「手や身体を動かしましょう」
「お手伝いもしてもらいましょう」

【地震のときの対応】
「言葉以外の表情や仕草にも配慮をしましょう」
「怖さを軽減してあげましょう」
「言葉をいったん受け止めましょう」

【被災地での本や話しの内容】
「現実に即した絵本を読んであげましょう」
「Good Newsを子ども達に!」
「安心感を与えるためにできること」

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【新しい避難場所が決まり、移動する時】

「0歳から3歳 穏かに安心感を伝えましょう」

まずどんなに幼い子どもでも、大人がせわしく動いたり、険しい表情の大人が真剣に話しあったりしていると、「何かいつもと違う」、「何か変化が起きる」ことを感覚的に察知しています。

ですからお子さんが乳児でも、18か月の赤ちゃんでも、 2歳児でも、きちんと目を見て、これから何が起こるかを平常心で話してあげてください。

大袈裟に「遊びに行くんだよ!」と嘘をつくより、「みんなで一緒に、○○というところに(電車、バス、新幹線etc)で行くんだよ。」と事実を穏やかに伝えてあげてください。

また「大人も一緒に行くこと」を強調して、不必要な心配を取り除いてあげましょう。2,3才なら小さなリュックに水筒や必要最低限の軽い荷物を背負うこともできますね。

マスクをいやがる様だったら、いつもうまくいくとは限りませんが、何かマジックで絵を描いてあげると効果があることもあります。

「3歳から6歳 具体的に伝えましょう」

行く場所の固有名詞をきちんと伝えましょう。「○市にある誰々さん宅のお家…」のように、できるだけ具体名をきちんと伝えてあげることで、不安感が減少します。また交通手段も教えてあげると、鉄道好きの子どもたちは、それだけでも嬉しい要素が増えます。

地図を見せて、「今ここだけど、ここまで行くんだよ」と具体的に説明することが安心感を与えます。

「どうしてお家を離れるの?」「いつまでいるの?」と聞かれることもあると思います。各家庭で判断して、分かりやすい言葉で説明してあげるのが一番だと思います。

但し、「遊びに行く」というよりも、「ここにいると、だんだんと空気が汚れてくるから、もっときれいなところに行くんだよ」

「空気がきれいになったら帰ろうね」などと説明してあげると、なぜ道中マスクをしなければならないか、なぜお茶やジュースを飲むときにも、ストローでマスクの隙間から飲むのかなど、いろいろな注意すべきことに理解を示し協力してくれて、移動の道中が少しでもスムーズになるでしょう。

「6歳から12歳 大切な価値を伝えましょう」

この時期は、3-6才の時よりずっと学校の友だちやグル-プ活動が大事な時期にきています。友だちとしばらく離れるので、是非、滞在先の住所、電話番号などを教えてあげましょう。

もしかするとインターネットで避難場所への一番効果的な交通手段、時刻表などを検索するお手伝いをしてくれるかも知れません。そうすると、道中の交通手段が自分の調べた通り行くと、子どもは家族の役に立ったと感じ、家族の一員として小さな自信につながります。

できる範囲で、きちんと今の状況を話してあげましょう。もう既に TVや映像で、もうかなり見て知っている子もかなりいます。原発の話し、放射能の話し、子ども達が被爆しないように安全な場所に移動することの価値など、科学的な数字ももう分かる年頃です。

もしかするとチェルノブイリのことも調べて知っている子も多いでしょう。TVから日々、何度も何度も繰り返される津波や地震や原発の恐怖を知らせる映像は、できる限り制限しましょう。反面、できる限り前向きのニュース、「80歳のおばあちゃんが助かった」、「病院に足りなかった薬が届いた」など、実際に起こったよいニュースを伝えてあげましょう。

小学生になると想像力が旺盛になるので、いろいろな質問攻めにあうでしょう。

「いつまで家を離れるのか」、「新学期から学校に行くのか」、「友だちも一緒に同じ場所に行くのか?」

3歳から6歳の頃と違って、かなり先を見通す力や洞察力の表れだと思って、感情的にならずに対応してあげてください。

また「友だちの○ちゃんちは行かないのに、どうしてウチだけ行くの?」という質問もしてくるでしょう。これも6歳から12歳という集団を好む時期に現れるごく自然な脳の働きです。

つまり倫理観や道徳心、正義感などが強くなり、大人の自己矛盾に気づいたり、親が白黒はっきりしないことなどに対して強く抗議してきます。

ですから、この機会は、その家庭なりの「大切にしている価値観」を伝えるよいチャンスだと思って、わかりやすく説明してあげましょう。「お母さんたちは、あなたが宿題をするより、生命の方が大事だと思うの」とか「生命は大切なもの」「あなたは掛替えのない大切な人」ということを伝える良いチャンスになるかも知れません。

【避難先へ向かう準備】

「自分のことは自分で」歩き始めた子どもは、身の回りの自立(くつを履く、服を着る)ができるようになりますが、3-6才や小学生になるとある程度の荷物作りもできます。これは自分の荷物を自分でつくるという自立の絶好の機会です。

目的地の季候や住まいの様子を伝え(または調べさせ)、自分で必要と思える衣服や下着、文房具などを最低限の荷物を、自分でリュックなどに詰めさせることです。

兄妹姉妹が多い家庭なら既にやっていると思いますが、このような緊急事態に備える為にも、自分のことを自分で考えるきっかけにもなります。

そして、自分の荷物は自分で持つことが鉄則ですので、自分が抱えきれないような荷物は、最初から持たないこと。あまりに沢山持って行きたい子どもには「AとB(またはC)の中でどれがいい?」と選択肢を与えて、よく自分で考えるチャンスを与えてあげましょう。

【避難先に着いたら】

まず何歳であれ、「よく最後まで頑張ってついてきたこと」 を誉めてあげてください。疲れているし、何が何だかよく分からない様子かも知れませんが、一緒に遠い旅をしてきた
ことをねぎらいましょう。

「0歳から3歳 場所や順序を保ちましょう」

子どもに、お世話になる家人を紹介するだけでなく、部屋のオリエンテーション(説明)もしましょう。(『デチタ!』の22~23ページ参照)

赤ちゃんでも抱っこして、ここで寝るんだよ。ここで食べるんだよ、遊んでいいところ、トイレ、お風呂などです。そしてオムツを変えるのも、授乳(哺乳瓶でも)、いつも同じ場所(一つの部屋であっても同じコ―ナ―)でします。食べるのも同じ場所で、ころころ変えないことが新しい場所に慣れる一番の近道です。

0歳から3歳の時期は秩序の敏感期なので、順序や、位置が同じであることに子どもは安心感を得ます。お布団の位置や寝る方向も同じようにします。オムツを変えるときの儀式(話しかけることば、足のマッサージなど)や、寝る前の儀式(絵本を読むなど)があれば、それも毎日同じルーティーンでしてあげてください。

もう歩ける子だと、家のどこに何があり、使い方、注意などを現場に連れていってゆっくり話してあげてください。あまり難しいことを沢山話す必要はなく、きっと疲れているので、簡単に全体的なオリエンテーションすることで安心感を与えます。

「手や身体を動かしましょう」

0-6才は、運動の敏感期にいて、動くことで学ぶ時期なので、彼らは毎日動く必要があります。

それはスポーツでも、お手伝いでも、大工仕事や料理、特にもちつき、田植えなど、人とする協同作業がいいですね。もしあるようなら、ボール(赤ちゃん用の柔らかい小さいボール、サッカ―ボール、膨らませるタイプの大きいボール)、縄跳び(短いのと、大縄両方)、バドミントンなどの2人でできるゲーム類。また単純な遊びですが、ゴム風船をふくらませて、パッと手を離しそれを皆で追いかける遊びも大好きです。

反面、あまり外で遊ばないタイプの子どもでも、手や腕を動かして何かを描くことも楽しいでしょう。言葉に出せない悩み、小さな胸に抱えている心配などを表現することにもつながります。

「お手伝いもしてもらいましょう」

この時期の子どもにとって、「遊ぶ」ことと「お手伝い」の境目はありません。できる限り昼間は外で遊んで、食事の際に歩行児ならお皿やコップを運んだり、調理のお手伝い(サラダをちぎる、混ぜる、ジャガイモの皮をむく、ゆで玉子の殻をむくなど)に参加させましょう。もし他の家族もいて大家族で滞在している場合、2、3歳くらいなら「配膳」「お片づけ」「枕ならべ」などを手伝ってもらいましょう。4、5歳くらいで力のある子なら、「布団しき」「布団たたみ」「風呂の掃除」など、ゴシゴシ系も大好きです。自分の衣服を畳んだり、同じ場所に自分の荷物を置いたりして、あたらし場所でも秩序(いつもそこにある)が一番安心感をもたらせます。

6歳から12歳なら、もっとダイナミックな手伝いができるでしょう。ある意味でボランティア的な活動です。同じ年齢の子どもたちがいれば、グループで相談して問題解決をし、決めたことを実行するのは最高ですね。なにせ彼らは「プロジェクト」が大好きなのです。

【地震のときの対応】

リンク先12「言葉以外の表情や仕草にも配慮を」まず大人が(子どもの前だけでも)落ち着くこと。「大丈夫だよ」というメッセージは言葉だけでなく、声の出し方、イントネーション、表情、仕草、動きからでも十分伝わります。もちろん抱きしめたり、頬ずりしたり、手をつないだりすることは言うまでもありません。「大好きだよ」というメッセージもこの時期、非常に大事と思います。

0歳から3歳は、「地面が動いた」ことも感じていない子どももいます。ずっと寝ていた子どももいますね。以前、私のクラスでも保育中に何度か地震がありましたが、大人が落ち着いていると、2歳から6歳の子どもたちでも全く平常心でパニック状態にならず、「押さない」、「走らない」、「しゃべらない」=「お・は・し」の約束を守っていました。(但し、緊急事態で逃げる必要のあるときは例外です)

「怖さを軽減してあげましょう」反対に、地震によってかなり深く恐怖を感じてしまった子どもは、風が吹くだけでも、窓を叩く音や、消しゴムを使って机が揺れるだけでも、身体を固めてしまい、ビックリする子もいます。「何かが動くことが怖い」とトラウマになっている子には、事前に言葉がけが必要かも知れません。「今、消しゴム使うよ」と今から何かが動くことを予測できるようにしてあげると、不安要素が減少すると思います。

「言葉をいったん受け止めましょう」またよくあることですが、「怖かった!」と表現をした子に対して、スグに大人は「大丈夫だよ!」と励ましがちですが、一度は「そう、怖かったんだ」と、きちんと子どもの「怖かった」という気持ちに共感してあげることが大切です。それから「でも、大丈夫だよ」と伝えると、子どもは受け入れてもらって、なおかつ大丈夫なんだという気持ちになるでしょう。

【被災地での本や話しの内容】

「現実に即した絵本を読んであげましょう」寝る前に、本を読んであげる儀式は続けてあげましょう。抱っこしたり、2人を膝に抱いたり、一日の中で、親子にとって、ゆったり安心できる時間です。様子をみて、同じ本が飽きてきたら、別の本を紹介してあげましょう。本の選び方:0歳~3才は、『デチタでチたできた!(以下デチタ)』にも紹介しましたが現実に即した絵本をご参照ください。

幼い子どもは、知っていることは非常に理解しやすく、愛着を感じます。それは食べたことのある果物でも、見たことのある動物でも、トラックでも、季節の移り変わりでも該当します。でも5,6才くらいから徐々に想像力が増し、目の前になくても思い描いたり、過去や未知の世界やファンタジーのお話も、彼らのイマジネーション能力の発達と共に紹介していくと大変喜びます。

「Good Newsを子ども達に!」

悲しくて恐ろしい体験や映像を見てきた子には、人間が本来持つ「良い姿」を紹介してあげましょう。例えば、本来、人は協力しあって生きていくことがわかるような本やお話です。昔、ポルポト政権下で傷つけ合う大人の姿ばかりを見てきた子どもたちが、難民キャンプの病院で、初めて医者が患者を救う姿を見て「本来人は、人を助ける存在だ」と感動した話を覚えています。

以前、神戸の地震のとき、クラスの子ども達にスイスからやってきた救助犬の話をしました。「ワンワン」と鳴くときは「人が生きてるゾ!」というサイン。「クンク~ン」というのは「人が死んでいる」というサイン。でも沢山「ワンワン」鳴いてくれて、がれきの下にいる人を助けてくれたんだって話した数年後。チリ沖の地震のとき、一人の子どもが「ねえ~、スイスから今度も犬、行ったかな~」と聞いて来て、私は何のことやら思い出せず、やっと後で救助犬のことだと分かりました。子どもたちは、人間が助け合ったり、動物がやさしい行動をしたりする本当にあった話が大好きです。

「安心感を与えるためにできること」

親しい人に会う→「アッ、○○ちゃんだ~!」と友だちや親せきの人が避難場所に訪ねていくと大喜びする。

笑う→言葉で遊ぶ(しりとり、○がつく言葉、反対言葉、なぞなぞ、手遊び、会話、ダジャレ)日常的な作業をする→掃除、洗濯、料理、手工芸などはグラウンディングや安心感につながる明るい希望のある話題を探す。→「7日ぶりに人が見つかった」「赤ちゃんが生まれた」など。

歌を歌う(輪唱が効果的)→何人かで一緒に輪唱をすると人の和、協力が感じられる、楽器を弾く→不安な脳を、前向きな脳、考え方にシフトしてくれる人が人を助けている風景を見る。

手紙を書く、もらう(メールができない場所ではハガキと鉛筆が大活躍!彼らに手紙を書くボランティアもあるといい)

絵を描く、コラージュを作る、写真を撮る。残っている家族に送るファミリービデオを子どもが企画・製作する。

以上、これらは大人の安心感にもつながると思います。

深津高子(国際モンテッソーリ教師/幼い難民を考える会理事)

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