プロセス指向心理学(プロセスワーク)の創始者、Arnold MindellとAmy Mindell(米国オレゴン州在住)から送られた、今回のテロ事件に関連して葛藤解決のためのレシピです。
アーニー&エイミー・ミンデルは、個人のための心理療法と並行して、人種間、マイノリティ・グループ間etc.の葛藤解決のためのグループワークを続けています。 “Sitting in the fire – Large group transformation using conflict and diversity(火のなかに座る – 葛藤と多様性を変容のために使う)という本も出版しています。
※参考サイト:Process Work Center of Portland
危機解決のための3ページのレシピ
エイミー+アーニー・ミンデル 2001年9月11日
(訳責:桑原香苗)
-そういうものとして使うには一般的過ぎるけれど、願わくば考える刺激として十分に幅広くあらんことを-
I. 現在の状況からいかに始めるか
II. いかに権威に働きかけるか
III. より大きな到達目標
IV. テロリストの本質
V. 犠牲者の本質
VI. いかにすべてを一つにしていくか (How to bring it all together)
I. 現在の状況からいかに始めるか(悲嘆、怒り、復讐…)
a) 苦痛と傷とがあることを認め、また、深く悲しむこと、悲しみを感じることには時間がかかることを覚えておこう。復讐という考えは、苦痛を感じることへのエッジであるかも知れない。その時々の状況を扱いつつも、覚えておくべきことは、すべての人々にとってのよい生活を長期的展望で見ること、全体的な見方である。怒っている人は誰でも、いずれ危険になる可能性があることを認めよう。ゆっくりおだやかに進んでいこう。注意すべき、また忘れてはならないことは、自分の外側にいる(正当な理由のない攻撃を行う)攻撃者(aggressor)は常に、自分を鏡に映せばどのように見えるかというイメージだということだ。現在の、あるいはあなたの人生のある時点での。
b) 攻撃という状況は、あなたの全体的な自己、つまり周囲の他者および宇宙の本質を見出すための最高の挑戦である。
c) もしできたら、自分の中に、もっとも洞察に満ちたリーダーでありかつ武道家であるような人を見つけよう。持てる認識力(awareness)のすべてを、ものごとを抑圧するのでなくそれに従うことに使い、自分がテロリストの攻撃自体になることができるような人、ものごとをめぐるすべての立場を自分のうちに、葛藤を起こすことなく感じ取れるような人を。
d) 内なる世界は同時に外なる世界でもあることを覚えておくために、あなたが抑圧された時のこと、その結果として怒れるテロリストの役割を取らざるを得なくなった時のことを思い出そう。また、あなたが同じ事を他の人たちにした時のことも思い出そう。どのように彼らを抑圧し、また言っていることを聞かなかったか、その結果として彼らがどのようにあなたに怒ったかを。あなた自身が「テロリスト」になったり他の人がそうなるように仕向けたりした瞬間を思い出せるなら、あなたは次のステップに進む準備ができている。そんな瞬間が思い出せない場合は、あなたが行うことはすべて、しっかりと地に足をつけたものにならないし、あまりうまく働かないだろう。
II.いかに「権威」に働きかけるか
覚えておいてほしいことは、ここまでのaからdの経験を意識的に行ってきただけで、もうあなたは権威を持った存在であるということだ。他の人たちはみな、彼らが話しているのは彼ら自身(同様に他者でもある)のことだなどとは気づいていない。世間で権威を持った人たちはおそらく、いかなる気づき(awareness)のトレーニングも受けたことがないかもしれないのだ。心のこもったやり方で、彼らに伝えよう。私たちがやろうとしていることは、簡潔かつ洞察に富み、素早くかつ持続可能なことではあるが、一時的な感情よりも感覚的認識(sensing)を多く含むことになるだろう、と。権威ある立場の人たちに対して用いるべき感情に基づいたスキルとは、彼らのジレンマへの感謝の表明(appreciation)だ。彼らは公的生活で板ばさみにあっている。復讐を求める人たちと愛に関心を持つ人たちの両方を満足させなければならないのだ。
以下のことを、彼らがすでに計画していることへの付け加えとして提案してみよう。彼らの方法に反対したり放棄させたりするものとしてではなく。覚えておいてほしい、世の主流派の考え方とは、あなたがさしたる自覚(awareness)なしに何かに反応している時のあなた自身の考え方なのだ。だから、あらゆることを共感(compassion)を持って行おう。では、次のステップに進もう。
III. より大きな到達目標
心の奥深く、また夜の静けさの奥深くで、あなたは大きな堂々たるさまざまなビジョンを持ち、人類および地球の未来を切望している。それらの大きなビジョンを今、はっきり形にしてみよう。あなたが行っているあらゆることにおいて、どのようにそれをモデルとして形に表すことができるか考えてみよう。そのビジョンを使い、それを形に表すところを想像しよう。モデルがなくては、ビジョンはうまく働かないのだ。
もし必要なら、そのビジョンに以下のことを付け加えよう。自然が我々を動かすのだ。私たちの仕事は、自然の動きを意識化し、役立てることだ。夢や感情は起こるものだ。私たちの仕事は、夢や感情が私たち自身や他のすべてのもの、あらゆる有情のもの(sentient being)の生命を豊かにするのを助けることだ。これをあなたのビジョンに「付け加える」ことが意味するのは、生きることそれ自体が聖なるできごとだ、ということだ。たとえ最初は生きることが不可能に思える場合でも。生きることは、あなたの最大限の能力と知恵が求められる「道場」でありアシュラムであり寺院なのだ。究極の状況では、あなたの最上の部分以外は必要とされない。それは機会なのだ。破滅であるだけではない。この見方を踏まえてこそ、次のステップに進むことができる。
IV. テロリストの本質
私たちの多くにとって最大の問題は、テロリストのエネルギーと動機の本質を理解することだろう。あなたや私や他の誰でもが傷つけることや復讐を望み、傷つく人たちを思いやることのない怒れるテロリストになる時は、我々人間の誰もがそれぞれに経験したことのある何かを明らかにして見せているのだ。ポイントは、テロリストはあなたにとって未知のものではない、ということだ。彼女または彼は、あなたが傷ついた意識状態にいる時になるものなのだ。
テロリストのある一面は自由の闘士であり、より新しい、よりよい、その人にとっての正義の世界を求めている。また別の一面は精神的求道者であり、生命自体よりも偉大な目標、つまり自分の生命やそれを犠牲にすることを取るに足らないものとする何ものかを見出した人だ。もうひとつの側面は、恐怖させるもの(terror)それ自体である。ずっと抑圧され続けて憤怒に変容してしまった恐れ(fear)だ。恐怖(terror)と怒りはたいへんに近い。恐怖(terror)は全能の攻撃者(aggressor)に傷つけられる恐れ(fear)によっており、怒りは、復讐の甘い感情と、犠牲者であり続ける代わりに意図せずに攻撃者と化すことの陶酔とが、ない混ざったところに由来している。
ある意味でテロリストは、その人がもっとも憎むものの鏡像と化しているのだ。彼女または彼は絶望の産物であり、そのいくぶんかは、その人が何のために戦っているのか他の誰もが誤解していることによって作り出されたものだ。では次のステップへ行こう。
V. 「犠牲者」の本質
犠牲者(例えばアメリカ合衆国)は、テロリストの心の中では攻撃者(aggressor:訳注:正当な理由なく攻撃を行った、という含みがある)である。「犠牲者」とは、攻撃されたことがあって自分を犠牲者だと思っている(自己同一化している)人のことである。さて、これから私が言うことは、共感(compassion)を持って理解していただく必要がある。犠牲者とは、自分が犠牲者であること(victimhood)を、テロリズムを「作り出す」ことにおける自分の役割に気づかないでいる罪悪感を和らげるのに使い、そこから動かない人のことである。犠牲者は、ひとつの単純な意味で、攻撃に関して有罪である。その人はずっと、テロリストと対面してその不幸を聞くことを望まず、あるいはできずに来たのだ。まだ不満を示すシグナルが穏やかで、少なくとも節度があって破壊的ではなかったころでさえ。ずっと無視し、抑圧し、支配し、自分は他の人たちより優れていると感じつづけることは、もっとたくさんの規則や法律や警察や軍隊、最終的には戦争を作り出す。これは、いわゆる犠牲者に対する批判ではない。実際には、無意識を共感的に認め理解することであり、目覚めを促し支えるちょっとした刺激がこれに続く。何ごとも、青天の霹靂として起こったためしはない。雲は何日も、何ヶ月も、何十年も、場合によっては何世紀もそこにあったのだが、晴れだというふりをみんながしていたのだ。
犠牲者についてのこのような知恵はすべて、たいていは後の祭りとしてしか起こらない。犠牲者を扱う上で私たちは、まず最初に、無実の傍観者だというそのアイデンティティを受け入れねばならない。次に私たちは、テロリストに復讐し破滅させようとする犠牲者の破壊的な意図を理解する用意がなくてはならない。その一方的さ(one-sidedness)に対して共感を持てた後にしか、次のステップには進めないのだ。あなたが「犠牲者」(あるいはテロリスト)の狂ったような攻撃性に精神的な優越感を感じている限り、自分自身では何もするべきではない。あなたはいまだに助けを必要としており、あなた自身が戦争であってさらなる戦争を付け加えるだけであり、問題の助けにはなれない。
今、次のステップに進んでくれるあなたに感謝する。
VI. いかにすべてを一つにしていくか
もしあなた自身が軍隊に直接影響力を及ぼしたり、平和交渉のテーブルについたり、知事や大統領になることができなくても、自分の仲間内や祈りの場で、電子メールや地元新聞で声を上げることや、隣近所の人たちと話すことはできる。わかってほしいのは、戦争はいたるところにあり、特定の戦場だけにあるのではないということだ。恐怖(terror)はあなたがそれを考えるときはいつでもある。あなたが自分の内面で、また外面で行うワークは、あらゆる形態の「ワールドワーク」であり、全体的な場に触れるものである。全体的な場とは、2、3の、あるいは多くの個人に直接影響を与えるのみならず、非局在性の量子波(quantum waves of non-locality)によってあらゆる人々に間接的に影響を与えるものである。
自分の内なる中心となるところを、動きの最中にある静けさの源として見出してから、次のことを試してみてほしい。テロリストと犠牲者についてのあなたの理解を使って、交互にそれぞれの立場になって話し、感じ取り、表現してみてほしい。一人で行う場合は、これはインナーワークである。他の人と行う場合は、グループワークになる。TVでやれば、ワールドワークである。テロリストとして、あなたの憎しみを、そこに至る経緯(history)を話してほしい。自分の個人的な生命よりも大切な、そのために戦っていることについて話してほしい。単に演じることはしないでほしい。これはロールプレイではない。これは、あなたの体を動かす、深く透徹したダンスなのだ。シャーマンになり、この宇宙に働く諸力の本質になりきってみてほしい。テロリストの体を、あたかも彼女/彼の口から出る言葉が骨の髄から湧いてくるものであるかのように感じてみてほしい。深みにおりて、あなたがこれまでにやって来たいかなることも越えたところまで行ってみよう。
あなたの認識力(awareness)を使い、あなたの感情を無限に広げてみよう。それが自然に終息した感じがしたら、立場を変えよう。
苦しめられた「犠牲者」として話してみよう。報復について警告しよう。あなたが個人的に、また社会的に持っている特権について、そして平和で静かな暖かい人間関係を望むことについて、どんなものか話してほしい。それから、深みに入っていこう。もしあなたが合衆国を演じるなら、ニューヨークのエッセンスをつかんでみてほしい。エンパイヤ・ステート・ビルだけではなく、自由の女神と呼ばれる民主主義のスピリットが誇らかに掲げる灯明のエッセンスを。忘れないでほしい。あなた自身が憩いの家(home)であり、抑圧されてきた人々に開かれた扉なのだ。自分が常にその夢を生きて来られたわけではないのを認めた上で、思い出そう。あなたの一番大きなビジョンを。民主主義を切に求める努力を。あなたの心の根っこまでよく見て、2億5千万人のために話そう。彼らを一つにまとめるかすかな希望、光のフィラメントについて。それは彼らを、時には無意識の怪物にもするが、可能性としては、自分を攻撃した人たちをも含めたあらゆることを受け入れる用意のある開かれた心にするものなのだ。もしあなたがこれを、あなた自身に向かって、他の人たちに向かって、新聞やTVに向かって、嘘偽りなく言うことができるなら、次へ進むべき時だ。
素晴らしい、予測できないようなことが起こるだろう。この会話を、長くても2時間続けたら、あなたの内面および外面にいるすべてのスピリットにさよならを言って手放し、家に帰ってすべて終わったと考えよう。でもやることはもっとあるのだ。ここにあるのは、自由と生命について歌われるべき歌のひとつであり、この世界的ドラマのエッセンスを繰り返し表現(recapitulate)したがっているダンスと芝居のひとつであり、驚く私たちの目前で繰り広げられた夢のような多様な現実である。しかし夢見られるべき夢、ワークすべき未来はたくさんあるのだ。挑戦してくれることに、感謝する。
※ご参考までに訳注