音楽大学での授業

今年度(4月)から国立音楽大学で、「音楽家のための心身論」という名前で週一回の授業を受け持っています。
前期14回の授業が、先日終わりました。
ピアノ、声楽、弦楽器、管楽器、打楽器などを演奏し、音楽を総合的に学んでいる3年生の学生さん16名でした。

以下のシラバスを書いて、学びたいと申し込まれた学生さんたちです。

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「アレクサンダー・テクニーク」の考え方を基に、自分の体を知り、自分が体をどう使っているかを認識する。
体を痛めない演奏、心身を不必要に緊張させない演奏のために、必要な知識と考え方を身につける。それを楽器演奏等に応用し、自分の望む表現ができるようになる。
心身健康に、末長く演奏生活を続けられるための基礎を身につける。

・頭・首・背骨の関係性と、それが体全体に与える影響を知る
・からだの部分への注意力と、からだ全体への意識
・立つ、座る、かがむ、おじぎをする
・指と腕とプライマリー・コントロール
・楽器を構えるときの、自分自身(の体)への意識
・呼吸と発声、あごの自由さ
・最初の音を出すときー「やろう」とするのを抑制すること
・脱力と緊張について
・見ることと演奏(楽譜を見る、指揮者を見る、観客を見るetc.)
・音の強弱をつけることと、地面からのサポート
・自分のパフォーマンスを建設的・客観的に把握する
・心身のセルフケア(演奏において、日常で)
・人前でのパフォーマンスー緊張を味方につける

※ 体の動きと、やりすぎをやめることについて、繊細なレベルで気づき体験していただくため、講師が手で触れることでガイドする時間を持ちます。

※ 毎回、何人かずつ、アレクサンダー・テクニークを応用して演奏等を実際にしてみる時間を持ちます。
(ほかに取り組みたいことがある人は演奏でなくても可。
これを直接評価するわけではなく、その後の学習に生かしていただくための時間です)。

※ 授業の順序や内容は、受講者の人数や関心、理解の度合いによって変更します。

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授業のはじめに確認してみたところ、「アレクサンダー・テクニーク」について、ほとんどの方が知らなかったとのことでした。上記のような内容をどのように紹介するかについては、悩んだのですが、学生さんたちは、「自分の体」について、演奏とのかかわりのなかで、あるいはそれ以外でも、考えたことがほとんどない方が多いようだったので、それぞれの人が、自分が体をどう使っているかの意識できるような時間をなるべく多く持ってもらいたいと思い、また、それによって演奏のやりやすさや、演奏の質、音が変化することを実感してもらいたいと思い、毎回、全員に少しづつ、手を使ってワークをする時間をとりました。

演奏のときのことからはじめるのがよいかなと思ったのですが、クラスメート同士であっても、人前で演奏することに抵抗があったり、自意識過剰になってしまう人も多いようだったので(音大性は特に、自分の音楽を評価される機会が多いからなのかもしれません)、日常動作からはじめ、徐々に、「やってみたい」という人から、演奏のことに応用するようにしていきました。そのなかで、アレクサンダー・テクニークの原理などを紹介していきました。

ボディ・マッピング(自分の体を認識しなおす)のための情報も、多くとりいれました。
頭と背骨の関係がどうなっているか、とか、頭とあごと首の位置関係がどうなっているか、とか、骨盤についてetc.
自分の体の骨の絵を描いてもらった回には、みなさんとてもユニークなかわいらしい絵を描いてくれて、大笑いになりました。自分自身のことだけど、描こうと思うと、イメージがすっかり抜けている場所があることに気づいたという人も多くいました。それに気づくだけでも、意味のあることですね。

ボディ・マッピングを教えるときは、「正しい知識を知ろう」というスタンスではなく、「自分が知らないことや、気づいていないことがあった、ということに気づく」ということを、一番大事にしたいと、私はいつも考えています。
実感することが大事だし、自分が何を実感しているかに気づくことが大事。
みんなが同じことを均一的に知ることを目指してしまうと、本当に知っている、ということからは離れてしまうこともあると思うからです。

そして、シェアする時間、まとめの時間をとり、クラスとクラスの間の一週間も、気づいたことについて考えて、実践したり、実験してもらったりすることをうながしました。

体全体のつながりを観察しながらの、自分でできるストレッチなどを紹介したりもしました。

回を重ねるごとに、学生さんが自分のこととして考えて、いろいろやってみるようになってきて、慢性的な体の痛みが軽減した学生さんも多く、また、「『楽器の性質上、体が痛くなるのは仕方がない』と思っていたことがそうではなく、痛くない演奏の仕方があることはわかった」「長年の課題だった「脱力」を、どうすればできるかがわかってきた」「人前での緊張が少なくなった」など、それぞれ、いろいろな変化・効果を実感したようでした。

学生さんたちの表情も、だんだん生き生きとしてきて、クラス全体の雰囲気も、だんだんよくなってきたように感じました。
「(授業と自分の探究を振り返って)これほど自分と真剣に話し合ったことは初めてだった」「自分の身体のことをこんなにも考えたのは初めてでしたので、とても楽しかった」などという声もありました。

やってよかったな、と思いました。
毎週、時間をとって、練習や演奏や、やるべきことをやることだけでなく、時間をとって自分自身と対話する、それを継続すると、やはり変化が起こるのだと思います。

後期は、人前などで緊張することへの対処についてや、評価されるということについても、さらに見てみる時間を取れたらいいかな、と思います。

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石井ゆりこによる東京と神奈川・湘南でのアレクサンダー・テクニーク・個人レッスン、募集中です。スケジュールはこちらです
演奏家の方(アマチュア、プロ、教師の方などなど。クラシック、ジャズ、ポピュラー、民俗音楽などなど) も、それ以外の方も、それぞれのペースで学ばれています。

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