人前で緊張してしまう人に多いのが、「緊張している自分に気づいてそれに反応してさらに緊張してしまう」というパターンです。私自身がまさにそのパターンにはまっていました。「緊張してはいけない」「リラックスしなくちゃ」と思えば思うほど、もっと緊張してしまうのです。
そこから抜けるのには、まずは、自分が緊張しているということに反応するのをやめることです。「ああ、今私は緊張しているな」と、落ち着いて観察して見守っていると、しばらくするとそこから変化していきます。
(アレクサンダー・テクニークの原理のひとつに「刺激に対してすぐに反応しない」ということがありますが、これは、自分自身の反応パターンという刺激に対しても、すぐに反応しない、ということが含まれていると思います。)
もう一つは、日常の、特に何もしていないときの自分の使い方を見ていくことが役に立ちます。何もしていないときにも、微細なレベルで体を固めるパターンが、だいたい誰でもあります。この、何もしていないときの微細な緊張パターンが、話をするときなど、その人にとって難しい状況下で緊張したときに、強調されて現れてくるのです。
たとえば首の緊張、また、脇をしめすぎて肋骨の動きと肺の動きを固めていたり、骨盤を固めていたり、などということが、日常の無意識のときに起こっていることがあります。
まずは、何もしていないときにそのような緊張パターンから抜けるやり方を学んでおくことで、難しい場での自分のコントロールが、ずっとやりやすくなります。
何もしていない状況での「自分の使い方」を見ていくレッスンと平行して、実際に声を出してみること、そして、話をすることを、やっていくとよいと思います。
以下は、私自身の話です。
子どもの頃から私は、人前ですぐに緊張してしまうことに悩んでいました。仕事場での電話応対ですら、「もっと大きい声が出せるように練習するといい」などと注意されることが多かったのです。でも、ひとりで練習してそれなりに声が出ても、いざという場になれば緊張して声が出なくなるのは変わりませんでした。それで、これは持って生まれた性格だから仕方ない、と、半ばあきらめていました。
そんなときに、初めてアレクサンダー・テクニークのワークショップに行きました。そのなかで、一人一人、みんなの前で何でもやりたいことをやってみる時間がありました。そこで思い切って、人前で話すことをやってみました。そのときに先生にワークしてもらいながらみんなの前で話してみると、気持ちはとても緊張していて怖いのに、体は楽!という不思議な感覚を、初めて味わいました。
この不思議な体験が忘れられなかったのが、私がアレクサンダー・テクニークを続けた理由のひとつでした。
アレクサンダー・テクニークにはいろいろな教え方のスタイルがあります。ワークショップで教えてくれた先生(Meade Andrewsさん)は、好きなことをやることにアレクサンダー・テクニークを直接、応用するスタイル(アクティビティ・スタイル)でしたが、当時、そういうやり方で教える先生は、東京にはいませんでした。
私が継続してレッスンを受けていた先生は、寝た姿勢でのテーブルワークと立ったり座ったりするワークだけをやっていました。私は「楽に声が出せるようになりたいんです」と言ったけれど、先生の教え方はいつも同じでした。でもその教え方はゆるやかに心身に染みとおっていき、持続的な変化につながっていきました。
その先生のレッスンを受け続けていたころ、何気なく道を歩いているようなとき、悲しくないのに泣きたくなって泣いてしまったことが、何度かありました。後で考えると、長年、固めて使っていた胸部のあたりが、そのとき、ゆるもうとしていたのだろうな、と、思います。
特に声を出すことをレッスンの中ではやらなかったにもかかわらず、体を緊張させる癖がだんだんほどかれてきて、声を出すことがいつの間にか、ずいぶん楽になっていました。
今も、全く人前で緊張しなくなったわけではないけれど、パニックになることや、緊張して声が出なくなったり、苦しくなることはなくなり、人前でソロで歌も歌えるようになりました。「そんなに大きな声じゃないのに、ちゃんと響く不思議な声だね」などと言われることもあります。
また、長い間大きな声を出し続けるような機会があっても、喉が痛くなることがなくなりました。