- F.M.アレクサンダー氏の発見より
- 私(石井ゆりこ)がアレクサンダー・テクニークを学んで役に立ったと思うこと
- アレクサンダー・テクニークの原理に関するメモ
- アレクサンダー・テクニークをおすすめしたいのはこんな方
F.M.アレクサンダー氏の発見より
アレクサンダー・テクニーク(アレクサンダー・テクニック)は19世紀のオーストラリア人、F.M.アレクサンダー氏が発見した、自分自身の使い方をよくするための一つの方法です。
アレクサンダーさんはシェイクスピア劇の一人芝居をやる朗唱家でしたが、舞台に立ったときに限って声がかれてしまったり、出なくなったりすることに悩まされていました。医者には、「舞台に立つ前の数週間、声を休めるように」と言われました。声を休めている間は何の問題もありませんでしたが、舞台が始まってしばらくすると、前と同じようにまた声が出なくなってしまいました。
それでアレクサンダーさんは、声が出なくなる原因は、自分の喉などの構造にあるのではなく、使い方に問題があるのではないか、と考えました。そして彼は、医者に頼るのではなく、自分自身でその問題と向き合うことに決めました。声を出そうとするときに自分が実際に何をしているかを知りたいと考え、セリフを言おうとするとき、鏡を使って自分がやっていることを観察することによって、解決方法を探し始めました。
アレクサンダーさんは、自分が気付かずにやっていた、自分を邪魔する動きに気づき、それをやめようと試みました。その過程のなかで、声を出すという機能を取り戻すためには、口や喉やそのまわりだけに着目するのではなく、体全体をひとつのものとしてとらえ、その全体としての使い方を見直す必要があると気づきました。
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このように、アレクサンダーさんが、のちにアレクサンダー・テクニークと呼ばれるものをはじめることになったきっかけは、アレクサンダーさん自身が情熱を傾けていた、朗誦劇を舞台でやる、ということに対して、ふさわしく対処できるようになりたい、という望みでした。
何かをしようとするときの自分自身を見てみる=何かをしているときに自分が自分自身をどう使っているかを見てみる
というのが、アレクサンダー・テクニークの特徴のひとつだと言えると思います。ヨガや太極拳などとちがって、アレクサンダー・テクニークそれ自体のフォームはないというのが、ユニークなところです。
もちろんアレクサンダー・テクニークは、何もしていないときのセルフケアにもとても有効です。そういうときでも「地面の上に立っている」とか「床の上に寝ている」などというふうに、自分が地面に支えられているということを意識してみるなど、環境と自分がどう関係しているか、という観点で見てみます。
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話を戻して、アレクサンダーさんは、体全体が協調して働くためには、まず、頭と首と胴体の関係が大切だと気づきました。
頭と脊椎とのあいだのプレッシャーが減り、頭と首と胴体の関係がよくなると、体全体がうまくはたらくようになり、声も出るようになったのです。アレクサンダーさんは、「頭と背骨全体の機能を邪魔していなければ、その人全体がうまくはたらく」という原理を、(プライマリー・コントロール/primary control)と呼びました。
彼は、頭で脊椎にプレッシャーをかけず、脊椎が自由になるような方向に頭を行かせればよいと考え、やってみました。それは、声を出していないときには確かにうまくいきました。しかし、いざ、セリフを朗唱し始めると、その途端に、また、いつもどおりの習慣的な声の出し方に戻ってしまったのです。
試行錯誤した結果、アレクサンダーさんは、自分の「感覚」に頼って正しいことをしようとしても、できないということがわかりました。感覚とは、その人のこれまで生きてきた歴史や習慣と切り離すことが難しいので、その感覚に頼って行動しているかぎり、今まで自分が知っている世界の範囲内から抜け出せず、新しいことをしようとしてもうまくいかなかったのです。
この経験からアレクサンダーさんは、次のふたつの原理の組み合わせが、自分の使い方を変えるには必須だということに思い至りました。
◎抑制すること(inhibition) ― ついやってしまう、自分自身を邪魔する動きを防ぐこと。
◎方向性を思うこと(direction) ― 活動に入ろうとする前に、自分自身のはたらきにとって建設的なプロセスを思うこと
このふたつは、「プライマリー・コントロール」と並んで、アレクサンダー・テクニークの重要な原理となりました。それらは単純に体の使い方にとどまらず、自分の「考え」に気づき、「考え」のパターンを変えることでもありました。体の使い方を変えることと、「考え」のパターンを変えることは、切り離せないものだったのです。
アレクサンダーさんは、このような観察、実験、考察のくりかえしの結果、声を取り戻すことができただけでなく、人間のあり方、生き方の可能性に関する考え方も大きく変わりました。彼はこの考え方と方法を、声や呼吸に悩む人をはじめ、さまざまな人たちに教えるようになりました。彼の教え方は、手で触れること、動き、そして言葉を使って、体と思考を含めたその人全体にはたらきかけることでした。それは、それぞれの人が、「自分自身の使い方」を学び直すことを助けるものでした。
F.M.アレクサンダーは、そのようにして、声を取り戻すことができ、それだけでなく、生きることに関しての考え方も大きく変わりました。F.M.はその新しい考え方と方法を、教育という形で他の人たちに伝えることが、社会に役に立つと考え、声や呼吸の問題に悩む人をはじめ、さまざまな人たちにレッスンをはじめました。そのときに、言葉だけでは伝わらないことを実感し、自分自身にワークしつつ手を使って人に教える方法を編み出していきました。
現在、アレクサンダー・テクニックは、世界各地にいる教師たちによって教えられています。 欧州のいくつかの国では医療機関と連携をとって医療を補完する方法として取り入れられています。
また、ジュリアード音楽院、英国王立演劇学校(RADA)をはじめとする芸術系の学校で教えられたり、 乗馬、ダンス、水泳、演劇その他に応用したアレクサンダー・テクニックのコースも各地で開催されています。
アレクサンダー・テクニークを学んだ著名人には、ポール・マッカートニー、スティング、ポール・ニューマン、ロビン・ウィリアムズ、鴻上尚史(演出家)、鈴木重子(ジャズシンガー)、ジュリアン・ラージ(Julian Lage, ジャズギタリスト)、ほかにもさまざまな人々がいます。
私(石井ゆりこ)がアレクサンダー・テクニークを学んで役に立ったと思うこと
- 立っていることが楽になった。
- 声を出すことが楽になった。
- 歌を歌うことと、ギターが少し上手になった。
- 苦手だったスポーツが楽しくなった。
- 人前で緊張しても、あまり焦らなくなった。
- 気分の落ちこみから抜け出すのが早くなった。
- 自分の体に居ることが心地よくなった。
- 自分の感情と一緒にいることが楽になった。
- 自分の考えを整理するのが楽になった。
- 五感を使って見えるもの聞こえるものを、より味わえるようになった。
アレクサンダー・テクニークの原理にかんするメモ
- アレクサンダー・テクニークのレッスンをするとき、実践をするとき、以下のような考え方を、自身のあり方を見るときや、日常の動きや演奏、実際的なことに応用しています。
●自分自身の使い方 (use of the self)
- まず自分自身をどう使っているかが、何をするにしても影響するので、まず何かをしようとする前に、対象の人やモノ、コトを観るより先に、自分自身の使い方から観てみよう。
(まず自分が第一の楽器。まず自分を調律。) - 何かをしよう、何かにはたらきかけよう、と思ったときに自分自身に何が起こるかを見てみましょう。
- 何かの刺激を受けたとき自分はそれにどう反応しているのかを見てみましょう。
- たとえば「姿勢が悪い」とか「体が歪んでいる」というのは結果。
歪みを直そうとするよりも、使い方を見直すことが大事。
●自分自身全体 (unity)
- 部分だけで考えない
- 全体のつながりを考える
- 部分←→全体 (木を見るだけでなく同時に森全体を見る)
- 思考と体の動きも、つながっている
●刺激に対する自分の反応を見直す/反応のしかたを変える
●プライマリー・コントロール (primary control)
頭と背骨全体の機能を邪魔していなければ、その人全体がうまくはたらくという原理。
●抑制(インヒビション/inhibition)
- かたくならずに立ち止まる。
- すぐにどびつかない。
- 行為のはじめや、行為のなかで「間をとる」。
それによって、新しいことが起こるためのスペースが生まれる。
無意識、自動的にやっている行動とは違う、新しい選択肢を選ぶことができる。 - 思うだけで、やらない(という瞬間をもつ)
- non-doing
- 定義を保留する
●方向性 (direction)
上記の「抑制」と「方向性」はセット。抑制することによって、方向性がおのずと現れてくる。
●thinking in activity (行為のなかで考える)
行為にともなう考え。考えがともなった行為。
●感覚 (sensory appreciation)/(「感覚はあてにならない」)
- 慣れ親しんでいない感覚は、最初は変な感じがすることも多い。何も感じられないことも多い。
- 感覚は、結果として起こるもの。タイムラグがある。感覚を頼りにして動こうとすることは、過去の情報を頼りに動くこと。それでは、いつもと同じことしかできない。
- 「いつもの」とは違う可能性にひらく。それが、感覚の引き出しをひろげること、感覚を研ぎ澄ますことの第一歩。
●エンド・ゲイニング←→ミーンズ・ウェアバイ end-gaining←→means whereby
- 結果に向かって急ぐ(=エンド・ゲイニング)という態度だと、結局、思う結果が得にくい。結果をコントロールしようとする習慣を手放すことが、結果への早道。
- ほしい結果をイメージするのはよい。でもそれに向かう過程では、プロセス(=means whereby/ そこに至る道筋)を大事にする。)
- 「よい」「悪い」などの評価は保留して、実験、観察のつもりで続ける。結果はあとになってわかる。